流れる呼吸、逆流する滴

重力に沿って流れる方向がなんとなく生きる道だとして、逆流するとは生に逆らうということだとして。
少しでも今に未練があった少女は故意に逆流しようとしても結局重力の向きへ流れてしまい、未遂で終わってしまう話。


流動 / 終日柄


重力の方向に正しく、毎日を、撫でながら、なんとかバラバラになった自分をかき集め寄せて這うように生きている。世間では「 普通 」と呼ばれる所謂 “ 平凡 ”とやらを並べて自分を操る毎日に、突然の齟齬が生まれ、日常は狂ってしまう。

あの日の薄暗い早朝の気温は4度だった。涙は体温と同じ温度であるという。涙を落とせば、私の欠片が流れていくようだった。私は、私の欠片を落としながら、なんとなく空を飛び、宙を舞う。でも私はうまく飛べなかった。足の骨が砕け散ったがまだ私の心臓は音を鳴らしている。まだ、まだ、私はまだ私を終わらせられない。私はまだ、私と別れることが出来ない。まだ足りない、だから、だからもっと。藁を結んでカーテンのレールにかける。ちぎれて傷跡だけが残る。練炭を燃やしても、漏れる空気と、燃焼しきらない炭素。大きな海に歩いたのに気づいたら藻掻いてしまっていた。


いつだったか、君と話した。いつか多分、僕達は死ぬんだろうね、なんて言っていた君は、私より先に、いなくなってしまった。僕たち、なんて、いつも君の中にいた私は、いつ、消えてしまったのか。私たち、が、私、になった時、残された私は、どこに歩けばいい。どこへ向かえばいい。いつ、消えてしまえばいい、


私は何度も繰り返した。流れるように日常に従って生きること、日常に逆らって逆流する滴のように死を望むこと、流れるようにまた生きること、逆らって死に願うこと、、繰り返して、今日も、私は生きている。



終日柄 1st mini album 「忘却と静寂」より、流動