色褪せない

「別にいつ死んでもいいよ。」

そう言った彼女は独りぼっちで。手を伸ばしても届かないような、私と彼女の間には見えない、超えてはいけない境界線があった気がする。


大学生になった春、彼女は学校のベンチに1人で座って、遠くを眺めていた。彼女は1つ歳上で、心をどこかに置き忘れたような笑い方をする。他人に優しいのに、なぜか自分から突き放すような部分があった。一方私は、いつも明るい能天気な人たちと騒いでいたし、そこに居る男に一方的に気持ちを伝えられたりして。正直別に恋愛に困ってなんかいなかったし適当に付き合って適当に過ごしていた。しかしいつの間にか、私達には絶対関わることの無い彼女のことを、知りたくなっていった。


半年経って少しずつ、彼女は私に自分のことを教えてくれるようになった。本が好きだとか、プラネタリウムを1人で見に行くとか、昼間の誰もいない電車に乗るのがすきだとか。そんな他愛も無いことでも、少しずつ近づけている気がして嬉しかった。多分、好きだった。

私が誘って、無理やり2人で飲みに行った帰り道、赤信号の沈黙で今にも"1歩"踏み出してしまいそうな彼女の腕を、私は必死に掴んでいた。別れ際、「お願いだから飛び出したりないでくださいね、笑」と冗談交じりに言った私の一言に、彼女は少し微笑んで、「別に、私はいつ死んでもいいよ。」とだけいって、手を振って去っていった。分かっていても、その一言がなんだか怖くて、私は勝手に借りていた彼女の部屋の合鍵を持って、彼女の家に走った。ドアを開けると、飛び降りようとしている彼女が目に飛び込んできた。彼女を止め、大声で泣きながら抱きつく私を、「ごめんごめん、笑」とあの時とおなじ笑顔で私を抱きしめていた。

あの日から、彼女をそこまで追い込むものはなんなんだろう、彼女が見ている世界はどのようなものなのか、と気になるようになった。彼女が見ている世界を同じように歩いて、同じように考えてみた。すると、普段気にしなかった、街に溢れる言葉、全部全部が汚くて、彼女が見ている世界に気づいてしまった。力を抜けば浮くのに、必死にもがいて足掻いて生きる人間が怖くなった。そのうち、彼女にも会わなくなった。何も信じれず、何も愛せなくなった。


入学して2年目の春、愛想良く話しかけてくる後輩がいた。大学からの帰り道「先輩、そこ危ないですよ〜!」と言う後輩の言葉に、

「別に私は、」